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2018 2018.07.13 「野菜の価値」を再提案—NKアグリ マーケットインの発想とは?


「こいくれない」

リコピン豊富で甘みの強い人参「こいくれない」や、苦味が少なくて葉が柔らかく、食べやすいレタス「アメ玉レタス」など、ユニークな野菜を出荷し続けるNKアグリ株式会社。2009年、写真現像機メーカーのノーリツ鋼機の社内ベンチャーとして始まった植物工場の農業が注目されています。農業に革新を起こし続ける同社 代表取締役社長 三原 洋一氏によると、イノベーションの源泉となっているのは「素人発想」であるとのこと。その素人発想の経営術の底にある、マーケティング志向の考え方に、ビッグビート 代表 濱口 豊が切り込みます。
 

写真現像機事業から農業へ、転換を図った理由

濱口:昨年開催し、好評だったイベント「Bigbeat LIVE」を2018年8月1日にまた開催します。このイベントは「マーケティングで経営を変える」をテーマに、昨年は経営層の方を中心にお招きしたのですが、今年はマーケティングの最前線で戦っているマーケターの方々に向けて「具体的な事例や実践者の生の声」をご紹介するイベントにしたいと考えています。
そこで、かねてから懇意にしているサイボウズ 社長室 フェローの野水克也さんにご紹介いただいたのがNKアグリさんなんですよ。
 
三原氏:ありがとうございます。
 
濱口:「マーケター」や「マーケティング」という用語や形にとらわれず、事業や経営のあり方がすでにお客様中心ということで、非常にユニークだとお伺いしています。そこでまず、NKアグリさんの事業内容や設立経緯から教えてください。
 
三原氏:当社は2009年に、写真現像機の製造・販売事業を営んでいたノーリツ鋼機の子会社として設立されました。事業としては、植物工場による野菜の生産・販売、そして機能性野菜の研究開発・流通を手がけています。
なぜ写真現像機の会社が、農業を手がけることになったのかといえば、そこには時代の転換があります。ノーリツ鋼機はもともと和歌山で創立され、優れた写真現像技術により、瞬く間に世界を席巻したグローバル企業です。当時から、それこそネジ1本に至るまで写真現像機のすべてを和歌山で製造し、世界に向けて販売していたこともあり、ものづくりに対する誇りや、すべて内製であることへのプライド、品質へのこだわりなど、メーカーとして非常に優れた風土がありました。
ですが、写真のデジタル化が進み、現像作業自体が減少してきたことや、ファブレス化の浸透により、国内でのものづくりの必要性が薄れたことで、事業転換を迫られたのです。


NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原 洋一氏

濱口:いきなり農業とは、思い切った転換ですよね。
 
三原氏:もともとの写真現像機が第1次創業、今回の取り組みについては第2次創業という位置付けです。これまでの写真現像機という市場が時代の流れで縮小傾向にあるなか、当時の代表が「いままでの延長でできることを考えるのではなく、これからの社会が必要とする分野を逆算して考えよう」と音頭を取り、食・医療・環境という3つのテーマが立ち上がりました。
その当時、私はノーリツ鋼機でLED照明の新規事業を立ち上げる役割として、LEDのベンチャー企業から転職したばかりでした。そこで食=農業事業に乗り出すという企画を聞いた時、もともとアウトドア派で農業にも関心があったので「面白そうですね」と返したんです。それが運の尽きでした(笑)。私を含め、7人が社内公募で集まって、農業を始めることになったんです。
 

農業の習慣を知らなかったから、野菜の「価値」を見つめ直した

濱口:当初、相当のご苦労があったそうですが。
 
三原氏:私がノーリツ鋼機の東京事務所から、あとは和歌山の事業所の社員が参加することになり、毎週平日は和歌山に通って植物工場を始めました。ですが、もともと全員が農業を経験しておらず、家族にも農業経験者がいないので、何をどうすれば良いのかわからなかったんです。机上で「こういう肥料を与えれば、こうなるだろう」と考えても、野菜はその予想どおりに育つわけではありません。前にやってうまくいったことが、同じようにうまくいくとも限りません。
こういう苦労がありましたが、もちろん良かった面もあります。その1つは、農業に染まり切らないということ。染まりすぎるとまわりが見えなくなりますから、一歩引いて考えるくらいでちょうどいいんです。私自身、いまも「異業種の人から見ると、農業のおもしろさはどこにあるのか」を考えています。



濱口:その一歩引いて見ることが、イノベーションを起こす要因になったのでしょうね。
 
三原氏:素人だからこそ、気付けたことはありましたね。野菜の規格もその1つです。バイヤーの方が来て、「この野菜はいいから出荷しましょう」といってくれたのですが、すぐに出荷停止になったんです。その理由は、袋が大きすぎてスカスカだったから。「野菜としては悪くないけど、お客様は鮮度感やボリューム感など感覚で購入するので、袋がスカスカだと選んでもらえない」と。その時は「そんなものか」と思いました。
そこで仕方なく、自分で和歌山周辺の7県や大阪府まで販売に行ったのですが、実は野菜の規格は地域でバラバラということに気付いたのです。規格が必ずしも正解ではないんですよ。
そこで視点を変えて、うちの工場の野菜で何が“売り”になるのかを考えました。植物工場の野菜の場合、一般的には「安定供給」と「無農薬」が売りですが、それだけでは差別化できない。だから違う切り口でいこうと決め、その分野でオンリーワンを目指しました。軸としたのは、味と機能です。そこで生まれたのが、食感にこだわったレタス「AQUA LEAF」です。レタスでも品種によって、しゃきしゃきとした歯ごたえのあるものや、柔らかな口当たりのものがあります。当社のレタスはその違いがパッケージではっきり分かるようになっています。お客さんは「このレタスの重さは何グラムですよ」というより、「このレタスはこんな味ですよ」と言われた方が選びやすいですよね。
 
濱口:それが新しい付加価値ということですね。
 
三原氏:確かに当社の野菜は、付加している価値もありますが、野菜の価値について業界全体で間違って解釈しているとも思うんですよ。無農薬や、規格に合っているかどうかではなく、私は野菜の価値について改めて定義し直している立場だと考えています。
 

素人だったから起こせたマーケット志向のイノベーション

濱口:いまの野菜の価値については、まさにマーケット志向の発想だと思います。農業を起点とした視点ではないことで、業界が気付かない疑問ややり方を推進してきたわけですね。
 
三原氏:植物工場が軌道に乗るまで3年かかったのですが、それは資金が潤沢にあったからではなく、失敗の連続で気付いたことがたくさんあったからです。たとえばうちの工場では、野菜の育成はすべてデータで管理して、何か問題があったらすぐに原因を追えるようにしているのですが、それも野菜作りの経験がなかったからなんです。農業分野にデータ分析を応用した、と評価されることもありますが、そもそも「以前と同じようにやってみよう」という経験がないから、きめ細かくデータを取って、変化と原因を常に追い続けるしかなかったんですね。こういう1つひとつの積み重ねで、なんとか形になってきたと思います。
 
濱口:事業として軌道に乗るまで、業界を知らなかったからこそ、それまでなかった新しいやり方で進めていくことになったわけですね。そういう事例があると、これから農業に参入する企業やベンチャーが増えるかもしれませんね。三原さんは以前、農業の未来について、「すべて輸入に頼るか、若い人にどんどん参入してもらうか2つの道があるが、後者に期待をかけている」というお話をされていましたが、それがすごく印象に残っているんです。



三原氏:農業は古い業界なので、農家や種苗メーカー、機構などの間で縦割りになってしまっていることが多々あるようです。私はむしろ別業界から来たので、農業全体のサプライチェーンや業界をもっと透明化して、議論を活発にし、新しい流通を一緒に作っていきたいと考えているんです。
また、農業は相手が作物なので、企業と同じ時間軸で事業の成否を評価できないという問題があります。たとえばコメであれば、年に1回しか収穫できないので、どんなにベテランの方でも数十回のPDCAを回すのが精一杯なんですよ。
当社の植物工場で作っているレタスでいえば、基本的に通年で毎日の出荷です。普通の農業なら考えられないペースでPDCAを回し、1年間で何をどれだけ収穫するか、データを取ってしっかり予実管理をしながら生産しています。こういう時間軸でないと、やはり企業の参入は厳しいと思います。
 

濱口:最近では、植物工場以外の露地栽培も手掛けられているようですね。
 
三原氏:はい、小さくて軽いけれど、トマトで有名なリコピンが豊富で、野菜本来の甘みも強いニンジン「こいくれない」です。
これは全国7道県の農家さんに委託生産していただき、NKアグリが管理しています。
野菜はもともと産地ごとに旬があり、ニンジンでいうと1~2ヵ月くらいしか出荷できません。でも日本列島は南北に長いので、北海道から鹿児島までつないでいけば、長い期間供給できるのです。そのように本来なら順繰りに作っていけば産地同士でシェア争いは起こらないはずなのですが、いまは旬と旬の重なったところで、産地間の競争が起こっているのです。うちの場合、産地をリレーしながら出荷して、流通期間と出荷量を増やすことができました。産地争いをしてしまったら成果が出ないのですよ。そんなことをやっているから、業界ではちょっと変わり者かもしれませんね。
 
濱口:産地対産地の構造から、産地連携への転換というのも、業界外からの新しい風ですね。
 

「マーケティング」という言葉を使わない理由

濱口:冒頭の話に戻りますが、NKアグリさんでは「マーケティング」や「マーケター」という言葉は使わないそうですね。
 
三原氏:あまり使いません。マーケティングというと、「お客様の方を見ること」や「見るべき」というべき論が出て来ますが、それがあまり好きではないんです。ただ、サイボウズからうちに転職してきた山川には、「あくまで客観的な視点で、うちのどこを伸ばしていけばいいかを考えてほしい」といっています。
 
山川氏:私の仕事は、端的にいえば「こういう風に農業を変えていきたい」と思っている種苗メーカーさんや研究者の方、生産者の方の思いをつなぎ、流通過程全体でその価値を守るために努力するという感じですね。
たとえば「こいくれない」にしても、その価値をどう伝えればいいか、みんなで一緒に考えます。私はそういう方々のアイディアや思いを整理し、みなさんが動きやすいように環境を整える役目です。


NKアグリ株式会社 VCM部 営業グループ 販売促進・PR担当 山川空氏

濱口:そこをあえてお聞きしますが、お二人にとってマーケティングの定義とは何でしょうか。
 
三原氏:マーケティングというと、ターゲティングの重要性が謳われますが、それは「誰の方を向いて仕事をするか」ということだと思います。そうすると当社の場合、買う方だけではなく、実際に野菜を作る提携先の生産者の方も対象になるので、表も裏もすべてマーケティング対象なんですよ。
つまり、すべての方々に対し、事業を続けていくことができれば、それはマーケティングができていることではないか。そう考えています。
 
山川氏:私の場合、価値を守り正しく全体に伝えていくことに力を入れています。そういう意味では、普通のマーケターと比べると、やはり特殊かもしれません。
 
濱口:Bigbeat LIVEでは、そういう特殊なミッションも含め、マーケターの方と語り合っていただければと思います。本日はありがとうございました。



【NKアグリ株式会社について】
ノーリツ鋼機株式会社の「食」部門を担うコーポレートベンチャーとして2009年11月に設立。日本有数の規模の太陽光を利用した野菜工場で、野菜を栽培するほか、自社農場で培った栽培技術や生産管理ノウハウを利用し、全国の野菜工場と提携し、商品開発を行っている。同社が展開するリコピン人参「こいくれない」は、2017年度グッドデザイン賞ベスト100および特別賞[ものづくり]を受賞 (主催:公益財団法人日本デザイン振興会) 。
 
■会社概要
商号:NKアグリ株式会社
代表者:代表取締役社長:三原 洋一
設立:2009年11月5日
資本金:155,000千円(ノーリツ鋼機 100%子会社)
事業内容:植物工場での野菜の生産・販売、機能性野菜の研究開発・流通
従業員数:社員13名、協力社員1名、パート60名
所在地:和歌山県和歌山市梅原579-1
会社HP:http://nk-agri.co.jp/
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2018年8月1日、BtoB企業のマーケターを対象としたライブイベント「Bigbeat LIVE」を開催します!
今年のLIVEはマーケティングの最前線で戦っているマーケターの方々に向けて「具体的な事例や実践者の生の声」をご紹介!

『マーケティングこそが経営を変えて未来をより良くするキーワードであると信じている』
そんなマーケター、クリエイター、ビジネスパーソンが多く出会い、何かを学び、視線をあげて未来を語る。
そんな場所をご提供いたします。ぜひ皆さまご参加ください。

※Bigbeat LIVEは大盛況のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。開催レポートはこちらから

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