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2019 2019.07.11 空 松村大貴氏「“PriceTech”という新しいエコシステムを作る」


 株式会社 空のコアバリューである ”Live Direct”, "Give & Give", "Journey to Win"

〈Bigbeat LIVE 登壇者インタビュー⑨〉
ホテル・旅館に向け最適な宿泊価格を提案し、レベニューマネジメントの効率化を支援する「MagicPrice」を提供する株式会社空(そら)。大手ホテルにも導入されており、いま注目のスタートアップだ。空は優れたアイディアと技術力だけでなく、代表取締役の松村大貴さん自身がカスタマーサクセスや顧客への価値提案を重視し、それに基づく組織づくりや事業戦略を進めているという特徴がある。そんな松村さんが、2019年8月2日に開催されるBigbeat LIVEに「真の顧客価値」というテーマで登壇する。空を設立した経緯や、自身の考える顧客価値、そしてそれを実践するための経営についてお話を伺いました
(聞き手:ビッグビート アカウントディビジョン マーケティングセールスディレクター 瀬川昌樹) 

 

株式会社空はこうしてスタートした

 —私が「MagicPrice」というサービスや、「空」という会社に惹かれるのは、そのサービス内容もさることながら、『Happy Growth Company』というビジョンやカスタマーサクセスを重視していることなど、顧客に対する価値提供を真剣に考えていることにとても共感するからです。そこで今回は、そうしたサービスを作った松村さんの素顔や人となりについてお伺いしたいと思います。
 
松村さん
ありがとうございます。緊張しますね(笑)。どこからお話ししましょうか?


 株式会社 空 CEO 松村 大貴 さん 

どういう経緯でこうしたサービスをリリースするに至ったのでしょうか。そもそも「空」という社名も、子供のころから宇宙や飛行機に関心があったからだと伺っていますが。
 
松村さん
そうですね、子どものころ「宇宙に行きたいな、宇宙に行く仕事に就きたいな」と考えていたのが自分の原体験です。
 
その後、高校、大学と進む中で、マーケティングやPRも面白いなと思って。大学の学部を選ぶ時も、ゼネラリスト的な教育をしている学部を選びました。PRやマーケティングももちろんですが、ミクロ経済学である価格決定の方法なども一通り学び、すごく面白かったのです。経済学を究めたわけではありませんが、学生時代にいろいろ学んだことが、現在につながっていると思います。
 
「空」を起業した経緯をお聞かせください。
 
松村さん
実は学生時代からWebサービスをリリースして起業しようと思ったのですが、あまり広がらなかったんです(笑)。そこで「就活しないと」ということで、インターネット事業や広告にターゲットを絞り、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)に入社しました。
 
ヤフーでは、ちょうど立ち上がってきたばかりのアドテク事業に携わりました。だから社会人としてのスタートは、マーケティングとテクノロジーですね。
 
ただ自分ではずっと「起業する」と決めていたのでヤフーを退職し、子供のころから憧れがあった「空」という社名で起業したんです。とはいえ、まずは起業しただけであって、何ができるかはその後に考えたんです。今までやってきたこと、学んだことを融合したところに何かがあると考え、いろいろな仮説検証をしていきました。
 
そこで、やっぱり空が好きだったので、航空業界のことをいろいろ調べたんです。エアラインだけではなく、本当にさまざまなカテゴリーの企業が存在していることを知り、その中で注目したのが航空券の販売事業でした。そこに、私がそれまでやっていたアドテク領域を組み合わせることで何かを作れるかもしれない、というのが最初の着想としてあったんです。
 
デジタル広告では、広告主にとってもユーザーにとっても最適な成果が得られるように広告入札単価を自動計算します。これをチケットの販売にも適用できるのではないかと考えました。
 


—そこからなぜホテル・旅館業に?
 
松村さん
アイディアからスタートして「これはビジネスになりますか」「投資する価値はありますか」ということを、業界関係者や投資家に聞いて回ったんです。航空業界だけではなく、旅行業界の方にもヒアリングしました。すると、ホテル業界がもっともこうしたソリューションのニーズが高いことに気付いたんです。
 
私が考えていたのは、単なる価格比較サイトではなく、売り手側にテクノロジーを導入し、「いくらで売ったら収益が最大化するか」を計算し、買い手である旅行者側の情報を組み合わせて、最適な価格を提示するというものです。
 
ご存じのとおり、ホテル業界は慢性的な人手不足で、しかも定着率も低い。これは業界全体の課題になっています。この状態で、ホテルの経営を良い方にも悪い方に向かわせるのも、レベニューマネジメントが効率的にできているかどうかなんですね。こういうことが、ヒアリングしている中で見えてきた課題です。
 
収益が下がると、「コストを下げなきゃ」となり、そうするとサービスの質が低下してくる。すると「価格に見合うサービスではない」ということで、顧客満足度も下がり、負のスパイラルに陥るんですね。
 
そこで、顧客のニーズを加味し、その中で収益を最大化する価格設定を効率的にできれば、当然収益も顧客満足度も上がります。すると、そのぶん投資に回せるので、サービスレベルの向上や建物のリニューアルなど、より満足度を上げる施策を打てるようになります。それにより、旅行業界そのものが成長していく。価格設定のサービスは、この成長に寄与できるのではないかと考えました。それが現在のMagicPriceにつながったんです。

 

顧客の成功と幸せが会社のビジョン、そこから事業や組織を作っていく

会社のビジョン『Happy Growth Company』も、「業界の成長に寄与する」という考えにつながっているのでしょうか。
 
松村さん
会社のビジョンに関しては、完全に私自身の価値観や人生観から結びつけて言葉を作っています。それこそ幼い頃から「どういう風に生きていけたら幸せか」「どういう人生を送りたいか」と考えていて、「関わる人すべてを幸せにし、成長していきたいな」と思っていたんですね。
 
株式会社という仕組み自体、人がもっと幸せに発展していくために作られたものなので、会社の存在目的が人の幸せであるというのは理にかなっているんです。ただ会社なので、ハッピーだけどボランティア的な取り組みではなく、そうかといって成長(グロース)だけを重視して自分たちだけが良ければいいというのではなく、お客様もその先にいる消費者の方々も、自社で働く人、お客様企業で働く人、その家族、みんなをハッピーに成長できるようにする、自分たちもそういう人生を送る、という意味を込めています。
 
この思いを基点に、事業戦略や組織戦略、業界やお客様とのコミュニケーションの仕方、そして企業文化作りを進めています。
 

 
—松村さんはカスタマーサクセスを重視して、ご自身で実践されていますよね。その取り組みについて教えてください。
 
松村さん
経営者の立場から「カスタマーサクセスをどう実現するか」ということについて言えば、2つのポイントがあると思います。1つは、ビジョンや物語やストーリーを通じ、関係者すべてとカスタマーサクセスを共有すること。もう1つは、カスタマーのサクセスが、それに関わるメンバーのインセンティブと合致しているかで、これはとても大事なことだと思っているんです。
 
たとえば広告事業であれば、無理やり広告をねじ込んでターゲティングすれば、一時的に広告主の売上が上がりますよね。ただ、あまりにも強引な押せ押せプロモーションは、長期的に見るとブランド毀損につながり、結果としてカスタマーのサクセスにならない場合もあります。ですが広告代理店の営業担当は、売上が立つわけだから、インセンティブも評価も上がるんですよ。これ、かなり矛盾してますよね。
 
メンバーのモチベーションが動く方向性の仕組み、つまり人事やインセンティブ評価と、お客様のサクセスがずれていると、どれだけいいビジョンがあっても、目の前のインセンティブの方に引っ張られてしまいます。だからうちの場合、顧客の成功を共通ゴールにして、インセンティブや人事評価の仕組みを作っているんです。
 
カスタマーサクセス——つまり、顧客の成功であり、顧客に対しての価値提供をどうするかという時、商品・サービスだけではなく、それを作る社員側のモチベーションをそちらに向かわせる土台を作ることとセットで考えないと実現できないなと思っています。それができるのは、おそらく経営者だけでしょう。私自身、昔よりも本当の意味でマーケティングをやるようになったと感じています(笑)。

 

プライステックという産業のエコシステムを創りたい

 

あともう1つ、私が個人的に気になっているのは「プライステック(PriceTech)」という言葉です。松村さんが提唱している言葉だと思うのですが、その想いを教えてください。
 
松村さん
プライステックは私たちのサービスのキャッチコピーでもないですし、所有物でもありません。FinTechやHR Techのようにカテゴリーの名称だと思っていて、「プライシングにテクノロジーを持ち込むこと」を言葉にしたら、PriceTech(プライステックになると考えました。さらにいうと、このプライステックは、ひとつの産業になる規模の話だと考えています。
 
マーケティング4Pの中で、Promotionは産業ですし、Placeとして小売やECがありますが、これも産業です。Productはもうそれ自体産業なわけですが、実はPrice、プライシングだけまだ業界ができあがっていないんですよね。
 
プライステックは当然ひとつの企業だけでできるものではなく、価格設定に悩む企業やプライシングのコンサルタントもいますし、もちろん消費者の方もいます。そして私たちのようなテクノロジーから関わる立場もあり、これでエコシステムを作っていけると思っています。
 
価格付けはどの産業、どの企業、どんな商品やサービスにも必要なものです。そこでみんなで「価格って何だろう」「最適な価格ってどういう風につけるんだろう」「どういう価格をつけると、売る側も買う側も満足できるんだろう」ということを、一緒に考えていく。まずはニッチな中でナレッジを蓄積し、情報発信していって、知見やベストプラクティスを集め、みんなが幸せになるプライシングについて考えていきたいと思います。



 —価格って難しいですよね。安ければ良いのかといえば、確かに消費者はうれしいかもしれませんが、働いている人にしわ寄せがいっているかもしれないですし……。

松村さん
宅配や郵便ではそうなっていますよね。需要と供給のバランスをリアルタイムで見て価格を変動させる「ダイナミックプライシング」というと、否定する人もいますが、消費者がそれぞれの価値判断において、最適な価格を選択できることは、決して悪い話ではないと思うんですよ。
 
安ければ飛びつくかといえば、必ずしもそういうわけではありません。遊園地にしても、「並びたくないので追加料金を払ってファストパスを購入する」という人もいれば、「平日の一番安い時間に行く」という人もいる。これだけ価値観が多様化する中、同じ商品だとしても、それぞれの価値観で最適な価格を選べるようになるといいと思うんです。
 
ただ、そういうことをやろうとすると、テクノロジーなしでは不可能でしょう。そこにプライステックの価値が出てくると思います。
 
—ありがとうございます。最後に、Bigbeat LIVEにいらっしゃる方々へのメッセージをお願いします。
 
松村さん
も勉強中ですので、一緒に学んでいきましょう。そして起業家、経営者の視点から1つ言えるのは、経営者になったことで、マーケティングに対する視点がまったく変わってきたということがあります。先ほどのカスタマーサクセスの話でもそうですが、マーケティング部の中にとどまっていては、本当に自分が目指すマーケティングはできないのではないかと感じることが多々あるんですよ。 
 
もちろん、部門や業務の垣根を超えるのは簡単ではないでしょう。でも自分の価値観に合致できる仕事、目指す価値を創り出せる仕事をしないで人生を終えるのは、とてももったいないと思うんですよね。マーケターの視点とはまた違う、起業家としての視点で皆さんとコミュニケーションできればと思っています。
 
—楽しみにしています! 今日はありがとうございました。




[撮影]篠部雅貴
[執筆]岩崎史絵
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